講義の狙いと資料の概要

計算物理春の学校 2024の個別講義 「NuclearToolkit.jlによる原子核構造計算入門」の資料です。

講義の狙い

原子核物理、特に"低エネルギーの"という枕を冠する分野は、核子多体系の構造や反応を理解することを目標とする学問分野です。

伝統的な原子核物理のレビューを行う時間も(能力も筆者には)ありませんので、本スクールの講義では、 核力に依拠した第一原理計算を中心に、核構造計算の基本的内容に着目してお話します。 また、筆者が2022年頃から開発し公開しているJuliaパッケージであるNuclearToolkit.jlを用いて、 第一原理計算やCI計算などを行う方法についても実習を交えながら紹介します。

原子核物理は、昔から量子化学や物性物理学、ひろく計算物理など、周辺分野と多くの共通点を持ち、 ときにアイデアを相互に輸入したりしながら発展してきた経緯があります。 原子核は、核子間に働く核力の複雑さに由来して、最も計算が泥臭い量子多体系と言えるかもしれません。 ただし、それ故に陽子や中性子の数が一つ変わるだけで、あるいは同じ原子核の異なる状態を見るだけで、 全く異なる構造や反応を示すこともある、非常にリッチで魅力的な研究対象です。 特に顕著な例としては、クラスター構造やハロー核など、一つの原子核の一つの状態であっても、 複数の手法・視点が不可欠となる面白い構造があります。

上に、RIBF理論研究推進会議によるレポート「RIBFの物理」から図を抜粋させて頂きました。 核図表という、陽子と中性子の数を軸にした二次元の図において、様々な構造が発現することを示しています。 残念ながらすべての原子核(すべての状態)を統一的に記述することは現状不可能ですが、 理論・実験の両輪によって、日々新たな発見がなされています。

日本にも、それぞれの手法(や質量領域)に特化した世界的な専門家が多数いる一方で、テンソルネットワーク・機械学習などの代理モデル、量子計算など、 分野の垣根を超えた新しいアイデアを用いて原子核という泥臭い系を考え直す人材については、 (特に低エネルギーの原子核分野において)まだまだ少ない、という印象を筆者は抱いています。

皆さんの分野では既に当たり前の手法・アイデアが、原子核物理においてはまだまだ新しいものとして受け入れられることも十分ありえるでしょう。 その一例についても、時間が許せばEmulator/Surrogate Modelの章で触れる予定です。 本講義に来て頂いた方々が、新たに原子核分野の計算に参入してくださったり、分野間の新たな繋がりや共同研究のきっかけ等になれば幸いです。

資料について

本資料は、Jupyter Bookを用いて作成されており、ブラウザやJupyter環境での閲覧を想定して作成しています。 コードを実際に実行する際は、ipynb形式のノートブックをローカル環境のJulia(カーネル)を用いて実行することを推奨します。

レポジトリのnotebookのダウンロードはこちらから、 Code→Download ZIPを選択してダウンロードするなどしてください。

講義資料内で提供しているコードを実行する方法は幾つかありますが、 最も簡単なものは、レポジトリをダウンロードし、notebooksフォルダ内で実行(≒ipynbを実行)することです。 inputファイルを読む場合、実行するノートブックと同じディレクトリにinputファイルを置く必要がありますが、 予めnotebooks以下に、必要なファイルを配置してあります。

注釈

Juliaの環境構築や使用するパッケージの導入については、Julia入門&導入の章を参照してください。

また、見出しに付与された\(\clubsuit\)マークは、時間の都合上スキップすると思われる発展的な注などを表しています。

ライセンス

授業資料の文章については、CC-BY 4.0ライセンス、コードについては、MITライセンスを適用します。 ただし、資料中で引用している論文の図(arXiv版から引用)については、著作権は各論文の著者に帰属します。

参考文献

各章にそれぞれ示します。